飛騨高山で、10年。

キナリ木工所は2011年、個人の家具工房としてスタートしました。

10年の印刷会社の企画制作職を経て、飛騨高山へ家族で移住し、1年の木工芸術スクールでの学びを経ての開業です。

普通はどこかのメーカーに勤めたり工房での修行的なものがあるものなので、いきなり始めることには「やめたほうがいい」というお話もありましたが、その時33歳だった私は、「今始めないと勢いがつかない!」という焦燥感もあり、ノウハウのかけらもないところからのスタートを切りました。

日本中、どこでもよかったのですが、飛騨には家具の材となる広葉樹があり、家具に携わる先輩や仲間もたくさんいることが心強かったのが、ここで工房を構えた理由です。

自分で考えたやり方で、自分で絞り出したデザインで家具を作り、ブログに掲載したり展示会に軽トラに家具を満載していってみたり。

今思えば無謀ともいえるチャレンジを経て、ありがたいことにオーダー家具の注文も待っていただくほどにいただけるようになりました。

しかし、同時にその頃、課題を抱えていました。丁寧に、1点1点のオーダーに応えるうち、設計の時間は増え、制作も毎回が新作のような1点ものだったり。そのくせ家具の値段は特別なオーダー家具の料金をいただいていなかったため、忙しいのに貯金が減る、というどうしようもない状況がありました。

その頃、家具メーカーに勤め、縫製と椅子張りの仕事をしていた妻と、「せっかくだからソファとかも作れるし、ミシンを買おう」と、最初の工業用ミシンを購入。木工と縫製を生かした小物ができないか、という単純な発想から生まれたのが、帆布と布のペンスタンドでした。

家具を展示する展示会に持っていき、展示したところ、お客さんからの反響が思った以上で、売れる。これはいい、と次にペントレイ、ペンケースと新商品に取り組むうち、「こっちで勝負してもいいんじゃないか。それくらいの可能性がある」と仲間からも言われていました。

家具に集中すれば小物が止まり、小物に集中すれば家具が止まる。両立に悩んだ上に、家具の収益構造の課題もあり、一旦小物作りに専念する、ということを決めたのが4年ほど前だったと思います。

6年前には工房の移転とキナリテンのオープンもあり、そこから今のペンスタンドケースやバッグなど、新たなアイテムも生まれました。

家具作りの技術を生かしながら、これまでなかった新しいものを生み出し、またお店では飛騨になかった本やアイテムを紹介したい。

もちろん、家具は私にとって特別なもので、じっくり取り組むべきものです。またチャレンジするときを伺いつつ、昨年より妻も合流し、キナリ木工所は2021年に10年の区切りを迎えました。

そして今、お店のリニューアルとECサイトのオープンです。

11年目のキナリ木工所。飛騨高山でものづくりを続けています。